Popular Post

Popular Posts

8/19/2022

  Chapter 11  >>


11.異世界人

「シンラチカユキか変わった響きだな」
「はい、シンラが家族名でチカユキが名前ですのでご主人様の呼びやすい呼び方で呼んでいただければと思います」
「わかった、チカユキが名前だな。それならチカと呼ばせてもらってもいいだろうか?」

日本でもシンラ先生と呼んでくれる人は同僚の医師ぐらいで患者さんや看護師達からはチカ先生と呼ばれていたのでそれには慣れている。

「はい、問題ございません」
「あと、ご主人様も止めてくれ。何度も言うようだが君はもう奴隷ではないし、俺は君のご主人様でもないからな。だから言葉遣いもそんなにへりくだる必要はないんだぞ」
「ではなんとお呼びすれば……」
「名前で、ゲイルと呼んでくれ」
「わかりました、ゲイル様」
「……できれば様も止めてもらいたいんだが、ゲイルと呼び捨てでいいんだぞ……?」
「あっ俺も俺も、ダグラス様とか呼ばれるとおっちゃんなんだか変な気分になっちゃうんで」

ゲイル様はなぜかすこし寂しげでダグラス様はいつもの軽い感じの雰囲気でこっちにひらひらと手を振られている。
様付はダメだと言われたけれども突然ゲイル、ダグなぞとお二人のように呼び合うことはできそうにない。
元々年下の人にも目上の方にも敬語で話す人間だったのでそこに対応するのは中々難しいだろう。

「いっ、いえ……呼び捨てはさすがに……それではゲイルさん、ダグラスさんと呼ばせていただいてもよろしいでしょうか?」
「まぁ君がそれがいいのであれば今は構わないが、言葉遣いも徐々にな」
「それではゲイルさん、ダグラスさん改めてよろしくお願いいたします」
「ああ、こちらこそよろしくな」

二人がこちらに笑顔をむけてくれる。
それを見るだけで空っぽだった心に温かいものが染みこむ気がする。

「ところでチカ、お前さん家族名があるってことは貴族の出なのか?」

ダグラスさんのこの言葉にどう反応するべきなのかわからなかった。
この世界は家族名――苗字があるのは貴族だけなのか?
しまったどうしよう……。
なんとかごまかさないと。

「すみません、奴隷になる前のことは良く覚えていないんです。ただ家族名がシンラだということだけは覚えていて……」
「記憶がないのか?そっか悪いこと聞いちまったな、いやぁチカの立ち居振る舞いや話し方が妙に洗練されているというか丁寧なもんだからそうなのかなぁと思ってな。覚えてないならまぁしょうがねぇ」
「確かにチカ君、あっチカ君って私も呼んでいいですかね?すごく上品な感じがしますよね」
「はい、私もミンツさんと呼ばせていただきますね」

多分、実際の年がアレでしゃべり方や行動が子供っぽくないからそう見えているのではないだろうか?

「まぁ、とりあえずギルドタグを先に登録してみたらどうだ?そうすれば色々わかることもあるだろう?あれは、本人が認識していないことすら書き込まれるからな」
「そうだな、悪いがミンツ準備してもらえるか?」
「大丈夫です、既に準備は万端です」

ミンツさんは持っていた鞄の中からごそごそと大きな石版のようなものを取り出すと眼の前の机の上にそれを置いた。

「この石版の上に手のひらを乗せて少しだけ魔力を流してみてください、それで登録はすぐ終わりますので」

まずい、魔力を流してくれと言われても魔力の流し方がわからない。
ここは正直に告げて教えてもらうべきだろうか。

「すみません、魔力ってどうやって流せばいいのでしょうか?」
「ああ、記憶がないのでしたよね。それに長年魔力を封じられていて奴隷扱いされてればわからなくなるのも当たり前ですね。私が教えてもよろしいですか?」
「いや、俺が教えよう」

そう言うとゲイルさんは、私の右手に自身の左手の指を絡ませてきた。

「チカ、今から俺が君に魔力をこの手を通じて流しこむ。流れてきたものを押し返そうとしてみてくれ、その押し返そうとする感覚が自分の魔力を流すということだ。魔力が流れこむ時に少し痛みがあるかもしれないが我慢してくれ、それではいくぞ」

ゲイルさんの手から私の手に何か温かい力のようなものが流れ込んでくる。
その力はとても心地がよいもので痛みなんて微塵も感じない、むしろ力が流れ込んでくる部分から快感が走り、背筋にぞくりと鳥肌が立ってしまった。
それに加えてゲイルさんからは森のなかにいるようなとても爽やかな香りがしてきて、そのことに気をとられてしまう。

「チカ、魔力を押し返すイメージをしっかりとしてみてくれ」

そうだ。
これは訓練だったと思いだし、流れ込んでくる力をゲイルさんの方へ押し返そう押し返そうと意識してみる。
すると徐々にゲイルさんから流れ込んできていた温かい力は押し返され、今度は私が押し返している力がゲイルさんの中へと流れこんでいく感覚に変わる。

「これは……んっ、チカ、それでいい止めてくれ」
「あっ、はい」
「それが魔力を流すという感覚だ、もう大丈夫か?」
「ありがとうございます、問題ないと思います」
「それではこちらに手を置いて試してみましょうか」

ミンツさんに促されるままにゲイルさんの膝の上から懸命に手を伸ばす。
石版の上に手を押し付けて先ほど教えてもらったように力を注ぎこむイメージを浮かべる。
すぐに石版の先端から光が浮かびあがり先日ゲイルさんに見せてもらったような画面が表示された。

*************************************

名前:シンラ チカユキ 年齢:16(身体年齢)
種族:ヒト族(アニムス体)
居住地:キャタルトン 西地区
RANK:F
生命力:F
魔力:SSS
筋力:F
耐久力:F
敏捷性:F
知性:SSS
所持スキル:治癒術 強化魔術 医学知識 医師免許 調理 家事
称号:異世界からの迷い子  至上の癒し手 知識の伝導者 虚弱体質 性奴隷
状態:性奴隷の呪

*************************************

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ミンツ、お前口は堅かったか……?」
「はい!!大丈夫です!口はとーっても堅いです!」
「そうか……良かった、お前の口をここで封じなくてすんだ」
「ちょ、ちょっと物騒なこと言うのはやめてくださいよ。あとゲイルさんなんで剣に手をかけてるんですか!?でも、確かにこれはまずいですねぇ……」

「ああ、本当にまずいな。――なぁチカ、お前一体なにもんだ?」

ダグラスさんにそう言われて驚き、表示されている画面をもう一度よく見る。
ステータス欄は良くわからないが称号のところの「異世界からの迷い子」これはまずい気がする……。

「あっ、あの……私は……」

私は何を言えばいいのかわからず、言葉に詰まる。

「何がおかしいか説明してやろうか?まずな、年齢のところに身体年齢なんていう表記、今まで俺は見たことがねぇ。次に魔力と知性の適正ランクだ。普通はその分野において天才的な能力をもつ人間の最高適正がSSでSSSなんていうランクは伝説にしか存在しないランクなんだよ。いくらなんでも規格外すぎる。あとは医学知識に医師免許なんていうスキルは聞いたこともねぇなぁ、そして極めつけは「異世界からの迷い子」「至上の癒し手」「知識の伝導者」この三つの称号だ」

今までの穏やかなダグラスさんの雰囲気ではない、怒気をはらんだような圧倒される気配を感じて身がすくんでしまう。

「ダグ落ち着け、そして気持ちを静めろ」

ゲイルさんが私の手を強く握りしめてこちらをじっと見つめてくる。

「あのゲイルさん、私は……」
「チカ、君は本当に記憶を失っているのか?それとも俺達に何か言えないことでもあるのか?」

真剣な表情のゲイルさん。
その澄んだエメラルド色の瞳で見つめられても私はどうしていいのかわからない。

「あー、悪かったチカ、あまりに予想を超えるものを見せられちまったんでな。こんなもん見せられて戸惑ってるのはお前さんのほうだよな……。それともチカ、何か心当たりがあるか?どんなことでも構わん。心当たりがあるなら話してくれねぇか?」

頭をガシガシとかきむしりながらバツの悪そうな顔でダグラスさんもこちらを見つめてくる。

「チカ君、もし一人で抱え込んでいることがあるならここで吐き出してみたらどうかな?ここにいる人間は信頼できる人たちばかりだよ?」

ミンツさんは蕩けるような微笑みを浮かべている。
私は……どうすればいいのだろうか?全て本当のことを話してみる?だが、果たしてそれを信じてもられるのだろうか?
しかし、こうやって目に見える形で示されている以上、全てを隠すことなんてできそうにない。

「チカ頼む、俺たちを信じてくれ」
「あの、私も全てを理解しているわけではないのです。ですが、私の知っていることは全てお話します……。信じられないようなお話ばかりになると思いますがみなさんを騙すつもりなんて本当にないんです。どうかお願いです、私のことも信じてください」
「ああ、チカお前さんの知ってること全部話してみな。俺たちはそれを全て受け入れてやるから」
「あっ、ありがとうございます」

そして私は、私自身のことと自分の身に起きたことを話し始めた。
この世界ではない地球という世界の人間であること。
そこで四十年近く生き、その大半を医者として働いていたこと。
気がついたらこの世界に来ており、この姿になっていたこと。
賊に捕まり性奴隷として売られたこと。
最初は貴族の館で飼われていたがそのうち娼館に売り飛ばされたこと。
体調を崩して娼館から奴隷商に再度売られ、そこで慰みものになっていたこと。
そして、ゲイルさんに買われたこと。

話し終えたころには私はボロボロと涙を流し、とてもみっともない顔になっていたと思うがどうしても涙は止まらなかった。
自分一人で抱え込むには重すぎる秘密をやっと誰かに話すことができた安堵。
この世界にひとりぼっちで放り込まれ寂しかったこと悲しかったこと、辛かったこと、痛かったこと、死にたくなったこと、私は誰かに聞いて欲しかったのだと思う。
そんな思いが入り混じり、とめどなく涙を流し続ける。
私の話を三人は真剣な眼差しで何も言わずに最後まで聞いてくれた。
それだけでも本当にありがたかった。
なんとか涙を止めようと両手で目をぐりぐりと拭っているとゲイルさんに両手を掴まれた。

「目を痛めるから駄目だ、無理に我慢する必要はない。出るものがなくなるまでそのままでいればいい」

そう言って、くるっと私を膝の上で回転させると厚い胸板に顔を押し付けるようにして抱え込まれる。
私はそれからしばらく涙を止めることができず、涙が枯れるころには随分時間がたってしまっていた。
つい先日も同じようなことをしてもらった気がするのにまたゲイルさんには迷惑をかけてしまった。

Leave a Reply

Subscribe to Posts | Subscribe to Comments

- Copyright © TenTen's Raw Novels - Devil Survivor 2 - Powered by Blogger - Designed by Johanes Djogan -