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8/19/2022

   Chapter 12  >>


12.この世界と私と


「すみません、少し取り乱してしまいました……」

鼻をすすりながら三人に頭をさげる。

「いや、聞きたいといったのはこっちだ。それに辛いことを思い出させてしまってすまなかった」
「チカ、お前そんなに長いこと奴隷だったんだな。本当によく耐えたなぁ……。いや、これはこの世界の人間として謝らなければなんねぇな。チカこの世界の連中が本当にひどいことをしてしまったすまねぇ」
「いえ、もうすんでしまったことですし、みなさんとあの人たちが違うということはわかっていますので……。あの、信じていただけるのでしょうか……?自分でも荒唐無稽なことを言っているという認識があるのですが……」
「んーまぁ、チカが嘘をつくような奴じゃないと俺は思ってるしな。それに、こんな嘘をついてチカにメリットは一切ねぇだろ?」

いつもの大らかで穏やかな雰囲気のダグラスさんだ。

「俺もチカを信じるぞ。実際、タグに異世界人という表記があるんだからな」
「でもなんで若返ったというか姿が変わってしまったのでしょうね?」
「あっそれは私も全くわからなくて」
「しかし、チカが実際には40歳を超えてて俺達より年上と言われてもなぁ」
「あっ、いえそれに関してはもう私も割りきってますのでこの身体にふさわしい振る舞いをしようと思います。ですので、みなさんもお気を使われることなく今までどおりに扱っていただければと思っているのですが……」

中身と見た目がつりあってないことそれは私の一番の懸念事項だった。
はっきり言って自分は気持ちが悪い存在だと思う。
それなら自分のつまらないプライドなどは捨ててしまい、もう一度人生をやり直せると割りきってしまったほうがいいだろうと考えていた。

「チカがそれでいいなら、そうさせてもらうか?なぁ、ゲイル」
「ああ、俺はチカが何歳だろうと構わない。ただ、どうしてもその見た目だと世話を焼いてしまいたくなる、それは許してくれ」
「ゆっ、許すなんてとんでもない。あの辛い奴隷生活から解放してくださったみなさんには本当に感謝しています。どうにかしてこのご恩をお返したいと思っているのですが、何分私はこの世界のことが全くわからないもので働くにしても……。もし、宜しければこの世界のことを教えていただけませんか?私が知っているほんのわずかなことでも元いた世界とは違うことが多すぎて……」

もう元の世界に戻れるだろうという希望は遥か昔に捨ててしまっている。
唯一残してきた母のことは、気になるがどうしようもないことだ。
それであればこの世界で生きていくための知識を少しでも教えてもらいたい。
そして、この人達に少しでも恩返しがしたい。
それは紛うことない私の本心だった。

「ああ、そりゃもちろん構わねぇが恩返しなんて考えなくてもいいぞ。俺達が好きでやってることなんだからな」
「いえ、そういうわけには……」
「それなら俺とゲイルからちょっとしたお願いがあるんでそれを聞いてくれればいいさ。それに応じてくれれば俺たちはうれしい」
「私に出来ることでしたら」
「そうか、それじゃそれについてはまた後でゆっくりとな」

何故かダグラスさんがにやりと少し腹黒そうな笑みを浮かべていた。

「チカの話でいくつかの謎は解けたが、魔力と知性のとんでもねぇ適正値とスキルの医学知識に医師免許、称号の至上の癒し手、知識の伝導者ってのはなんなんだろうな?」
「適正値というのと称号については分からないのですが医学知識と医師免許いうのは私が元の世界で医者を仕事にしていたことと関係があるのではないかと思います」
「そういえば医者をやってたんだよな?だが医者っていうとあれだ、呪い師みたいなもんだろ?悪い血を抜いたり、なんか儀式めいたことで悪い気を払って病気を治すとか聞いてるが……」

私は耳を疑ってしまった。
医者がなんでそんな中世ヨーロッパの呪い師みたいなものと混同されているのだろう?

「ちょっ、ちょっとまってください。こちらの世界の医者というのは患者を診察して病気の診断をしたり、手術をしたり、薬を出したりということはしないのですか?」
「あーそれはどちらかというとミンツみたいな薬草の取り扱いに長けた、薬師の仕事だな。手術ってなんだ?」

まさか、この世界の医療水準がそこまで低いとは思ってもみなかった……。
手術という言葉すらわからないなんて。
いや、魔法がある世界だから魔法で身体の治療も行うのだろうか?

「手術というのは簡単に説明すると身体の中の悪い部分や怪我した部分などに直接メス……いえ、専用の刃物を入れて切り開いて取り除いたり、傷ついている部分を縫い合わせたり、つなげたりして病気やケガを治す方法ですね。ただし、これをやるには特殊な設備や道具、薬や人の助けが必要になりますが」
「なっ、なんかすげぇな……」
「それ痛くないんですか……?」

見ると三人共顔をしかめて嫌そうな顔をしていた。

「もちろんそのままだと痛みがあるので麻酔という技術で痛みを感じないようにしています。魔法が存在しない世界だったので科学技術とよばれるものが発達していまして、その一環として医療技術も発展したのだと思います。この世界は治癒術というものがあるんですよね?それで、治すことができるから必要なかったんじゃないでしょうか?」
「いえ、治癒術はそんなに便利なものではありません。治癒術を使う際には治す対象へのイメージがとても大事になるのです。表面上の切り傷や骨が折れたなどは治すことができますが、動かなくなった手足や病気などには効果がほとんどありません。なぜ手足が動いているのか?複雑な病気はどういった原因で何が悪いのか?そういったことは誰にもわからないでしょう?ですからイメージができないのですよ」

これを聞いて私はしばらく固まってしまった。
本当にこの世界の医療水準は低いようだ。
きっと解剖学なんて全く解明されていないのだろう。
私にはなぜ手足が動いているのか、その原理がわかる。
病気も検査ができなければ確定診断はできないが、症状などを見ればある程度どこの臓器が悪いのかも見分ける自信はある。
イメージできれば治すことができるということは私に治癒術が使えればそれを治すことができるのではないだろうか?そんな考えが頭をよぎるがこれはまた日をあらためて相談してみよう。
今告げたとしてもきっと更に混乱させるだけだ。

「そうなんですね、もっと魔法って万能なものかと思っていました」
「てぇことはチカの世界で医者っていうのは専門的な知識をもったしっかりとした職業なんだな。チカお前すげぇな」
「いえそんなことは、勉強は好きだったので……」
「学校には通ってたのか?」
「はい、私の世界というか国では全ての国民が九年間学校へ通う権利を持っていまして、保護者は子供にその教育を受けさせる義務があります」
「九年間もですか?それは素晴らしい制度ですね、この世界でもぜひ見習いたいぐらいです」

ミンツさんは義務教育のシステムについて興味津々の様子だ。
機会があればもっと詳しく話してあげよう。

「その後は、任意になりますが三年間の高等教育とその更に上に専門的知識を学ぶ場がいくつかありまして、四年ないし六年また勉強します。医者は学ぶことが多かったので六年間学びました。その後で国が定める試験を受けて医師免許を取得したんです」
「ってことは十八年間ずっと勉強し続けたのかよ、すげーな……」

こちらの世界は義務教育という概念がそもそもないらしく、裕福な家の子や貴族が通う学校か軍属になるための士官学校がいくつかあるだけらしい。

「はい、なので医学に関する知識はあるのでそれがスキルということになっているのではないかと」
「なるほどな、よくわかった」

「あの、私からもいくつかこの世界についてお聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」
「ああ、構わないぞ」
「元いた世界には、獣の耳や尻尾のある人間はいなくて私と同じ種族の人間しか存在していなかったのですが、奴隷だった時に聞いた話だとこの世界で私のような種族は珍しいということだったのです。そんなに少ないのですか?」
「ああ、それはなぁ……」

ダグラスさんが何かとても言いづらそうな顔をしている。

「チカのようなヒト族は、数十年前までその妊娠しやすさや性行為時のその……快楽の強さに目をつけられて俺達のような獣人に狩られてしまったんだ。性奴隷にされたものも多いし、無理やり子作りをするための道具のように扱われていたと聞いている。そのため今では絶滅寸前の状況だ、本来であれば手厚い保護の対象なのだが闇のルートで奴隷にされてしまうことも多い」

ゲイルさんが代わりに答えてくれた。

「えっと、ヒト族との性交渉が気持ちいいというのはあの……性奴隷時代に聞いたことがあるのですが妊娠しやすいというのはどういうことなのでしょうか?」
「俺たちのような獣人は獣人としての力が強いほど繁殖力が低くてな、力の強い獣人同士では中々子供が出来ないんだ。ヒト族は獣人に比べて魔力が非常に高いだろ?だから、力の強い獣人との間にも子供が出来やすい」
「ゲイルさん他人事みたいに言ってますけど、あなたも支部長もその力の強い獣人の一人なんですからね」

なるほど、そういう理由だったのか。
だが根本的に同性同士しかいないこの世界でどうやって妊娠するんだろうか?

「あの、非常にお聞きしづらいのですがこの世界ではどうやってこっ、子作りをされるのでしょうか?ちょっと私の世界とは根本的に違うようでして……」

女性という存在がいない世界で私の世界の繁殖の仕組みを説明しても理解してはもらえないだろう。

「そうだな、まずこの世界の人間には種族の他にアニマかアニムスという2つの区別があるんだ。このうち、妊娠することが可能なのがアニムスだ。」
「それはどういう風に決まるんですか?」
「原理はわからないが生まれたときには既に決まっているらしい。獣性が強いものは大体アニマだな、逆に魔力が高いものや草食系の獣人はアニムスであることが多いがこれも一概に全てがそうとは言い切れない」
「この中では俺とゲイルがアニマだぜ。んでミンツとチカ、お前さんもアニムスだ。ほらタグ情報にも書いてあるだろ?」

ダグラスさんの言葉に驚きタグ情報の画面を見ると、種族:ヒト族(アニムス体)と書いてある。
私はこの世界では妊娠して子供を産むことが出来るという事実にぽかんと口があいてしまう。

「そして、アニマとアニムスが性行為をすることで子供は産まれるのだが……」
「そこから先は堅物のゲイルにはあれだな、俺が説明してやるよ。神殿に行けば子作りをするために必要な核がもらえてだな、セックスするときにそれをアニムスのケツの中に入れてからアニマが突っ込んで中出しするんだ。そうすると核にアニマの子種がくっついて胎児が育っていく、ただこれも絶対じゃねぇんだ。アニムスの魔力が高いほど核に子種が定着する確率があがる。定着すればあとはアニムスの腹の中に子供を育てる場所が出来てそこで子供が育って出産っていう形だな」
「核……子種……中出し……」
「ちょっと支部長、下品ですよ!」
「まぁいいじゃねーか、わかりやすかったろ?ちなみにアニマに比べてアニムスの数は極端に少ねぇから複数の伴侶を持つことが出来るぞ、ミンツも伴侶が二人いるしな」

伴侶が二人!?驚いてミンツさんを見る。

「はい、不本意ながら二人ほどおります。なんというか情にほだされてしまったというか押し切られてしまったというか……」
「何言ってんだよ、お前ら『番』じゃねーか。よく人目もはばからずイチャイチャしてるって他の連中が言ってるぞ」
「なっ!イチャイチャなんてしてませんよ!!誤解です!あれは無理やりにですね!!」

何故か今までみたことないぐらいミンツさんが慌てふためいている。

「わかったわかった」
「あの『番』というのは?」
「ああ、それもわからねぇか。『番』っていうのは、口で説明するのが難しいんだがなんていえばいいんだろうな、本能的に求めてしまう相手というか、理屈では説明がつかないほどに惹かれてしまう相手のことだな。ヒト族のチカにはあまりわからねぇかもしれないが俺たち獣人にとって『番』は本当にかけがえのない守り慈しむべき存在だ。ちなみに『番』もアニマの相手は一人だがアニムスには複数いる」
「そう……なんですね、私の世界とはあまりに違いすぎて色々と混乱はしていますがとても良くわかりました。異世界人の私にも『番』となる方はいらっしゃるんでしょうか?」
「いるんじゃねーかなぁ?」

またダグラスさんはニヤニヤと何かを含んだ意地悪そうな笑みを浮かべていた。

「それよりみなさん、ちょっと休憩にしませんか?色々ありましたし、チカ君もちょっと整理がしたいでしょう?」
「あっ、はいそうしていただけるとありがたいです」
「よしそれじゃ昼食にするか、市場で色々買ってきておいたんだ」


Author Notice


作中で使わせていただいている「アニマ」「アニムス」はユングさんが用いられている本来の意味合いとは全く違う完全な創作ですのでご容赦いただければと思います。

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