Chapter 13 >>
13.『番』
ダグラスさんが机の上に色々なものを次々に広げていく。
パンに炙った肉や魚、野菜などを挟んだ大きなサンドイッチのようなものや大きな肉の塊を串に刺してタレをつけて焼いたもの、サラダに果物らしきものもある。
飲み物はここに来る時にダグラスさんが買ってくれたあの水筒を渡してくれた。
ゲイルさんの膝の上だしお世話になってる身で勝手に食べるのも……と悩んでいると
「チカ遠慮せずに好きなものを食うんだぞ」
とダグラスさんに頭の中を見透かされたようなことを言われ、
「チカどれが食べたい?」
とゲイルさんから尋ねられた。
「えっと、その肉と野菜を挟んだものを一ついただけますか?」
「わかった」
ゲイルさんはサンドイッチのようなものを手にとると私の口元に持ってくる。
これはまさか、手から食べろということだろうか?
「あのゲイルさん、自分で食べられますので……」
「大丈夫だ」
だから何が大丈夫なんだろう……?
「そっ、それじゃあ、いただきます」
差し出されたサンドイッチにかぶりつく。
シャキシャキとしたレタスのような野菜と炙り肉についたタレ、香ばしいパンの組み合わせが本当に美味しくて、ぱくりぱくりとゲイルさんの手から食べているうちにぺろりと平らげてしまった。
「次に食べたいものはあるか?」
「えっと、もう一つ同じものをいただいてもいいでしょうか?」
「だからそんなに遠慮すんなって、育ち盛り……まぁ身体はそうなんだからいいよな。もっとしっかり食べて肉をつけろよ」
ゲイルさんが今度はサーモンのような魚とチーズ、トマトのような野菜が入ったサンドイッチを手に取り、また口元にはこんでくれる。
「あのゲイルさん、これだとゲイルさんが食べることができないのでは……?」
「大丈夫だ、チカが食べている間に食べている」
本当だった。
私がサンドイッチを咀嚼している間に、ゲイルさんは器用に右手でサンドイッチや串焼きをすごい勢いで食べている。
サーモンのサンドイッチもさっぱりとしたサーモンと濃厚なチーズなどそれぞれの具材のバランスが絶妙で絶品だった。
一つ一つの大きさが非常に大きいので私のお腹は二つ食べただけでかなり膨れてしまっている。
「チカ、次は?」
「すみません、もうお腹一杯でして……」
「本当に君は小食だな、もっと食べないと大きくなれないぞ?そうだな、あとはこの果物を食べておくんだ」
ミンツさんが皮を剥いて綺麗にカットしてくれていた房のある果物をゲイルさんから渡され、いくつか食べてなんとか許してもらった。
一息ついたところでダグラスさんが渡してくれた水筒からジュースのようなものを飲む。
「でも正直、ゲイルさんのそんな姿を見ると驚いてしまいますね。失礼なようですけどゲイルさんってまさに質実剛健というか堅物というか。口数も多い方ではないですし、誰にも興味を持たれないというか……、面倒見は良くても決して立ち入らせない壁があったと思うんですよ。どんな相手にも決して深入りをしない感じで支部長とは正反対のイメージだったので不思議です」
「俺とは正反対ってどういう意味だよ……」
「えっ?そのままの意味ですが」
「チカは特別だ、さっき確信したがチカはおれの『番』だ」
私は飲んでいたジュースを吹き出してしまった。
今ゲイルさんはなんといった?
私がゲイルさんの『番』?
「えっ、それ本当ですか?」
ミンツさんも驚いている。
「ああ、さっきの魔力のやり取りではっきりとわかったんだ。チカの魔力は全く痛みや不快感がなかった、むしろ快感を覚えたほどだ。それに、チカから強い香りを感じた。とてもさわやかな新緑のような香りだ、チカはどうだった?」
「あっはい、私も魔力のやり取りに痛みなどはなかったです。暖かくて心地よい感じでした、確かにゲイルさんからは爽やかな良い香りがしていましたけど……」
「あーそれは確定ですね、チカ君には説明してなかったですけど基本的に他人の魔力を受け入れると不快感や痛みを感じるんですよ。治癒術を使う際も相手にそういった感覚を与えてしまいます。それが『番』同士だと一切そのような感覚はなく、むしろ心地よさすら感じます。それと、魔力を発しているときに『番』同士にしかわからない独特の香りがするんですよ」
「そっ、そうなんですね……。ゲイルさん、すみません……」
どうして私なんかがゲイルさんの『番』なんだ。
私がこの世界にこなければゲイルさんは別の『番』と出会えていたのではないか?
どうしてもそんな考えで頭が埋まってしまう。
「なぜ謝るんだ?」
「アニマの方にとって『番』というのは唯一のとても大切なものなんですよね?それが私のような得体のしれないもので……」
「チカ、そんなことは……」
その時、黙ってこちらを見ていたダグラスさんが急に口を開いた。
「すまん!ちょっといいか?俺も確かめさせて欲しいことがあるんだ、チカをちょっとこっちへ貸してくれ」
ダグラスさんにそう言われるとゲイルさんはひょいっと私を持ち上げダグラスさんに渡す。
「チカ、俺とも魔力の交換を試してみてくれねぇか?」
「はっはい、私は構いませんが」
疑問はあったが言われるまま、ゲイルさんの時と同じように互いに指を絡め、ダグラスさんから流れ込んでくる力を受け取り、それをまた押し返すように送り返す。
この感覚は――ゲイルさんの時と同じだ。
そしてダグラスさんからはとても甘い熟れた果実のような匂いがする。
ということはまさか……。
「ああ、自信はあったんだが確かめられてよかったぜ。俺もチカの『番』だな」
見るとタグラスさんは目尻を下げてとてもうれしそうな顔でこちらを見つめている。
「支部長もですか!?あの相手をとっかえひっかえ下半身節操なしでギルドの種馬と呼ばれる支部長の『番』がチカ君……。チカ君いいですか?もし、支部長に無体なことをされかけたらすぐに私に教えてくださいね!?」
「ミンツ余計なことをチカに教えるんじゃねぇよ、それにお前の中の俺はどうなってんだ……」
「まぁ、それはさておきチカ君、この二人が『番』ではある意味大変だと思いますが逆に言えばこの二人は超優良物件です。地位もあるし、財産もあるし腕も立つ、ボディガードとしては最適です。上手に使っていきましょう!」
「あのっ!ちょっとまってください!」
つい大きな声を出してしまった。
「どうしたんだ?」
「いえ、先程も言ったように『番』ってとても大切なものなのですよね?それが私で本当にいいのですか?得体のしれない異世界人で中身と外見年齢はあっていない。それに……、私はこの世界に来てからずっと…その…せっ性奴隷でした。数えきれないほどの男たちに犯されて……とても口では言えないようなことも散々された汚れきった身体です……、そんな私がお二人の『番』だなんて……」
自分の意思ではないといっても一方的に『番』認定された二人の気持ちは今どうなっているのだろうか。
もう今日は本当に混乱することばかりだ。
「あのなぁ……チカ、確かに俺はさっきお前のタグ情報で混乱して、ついお前を問い詰めちまった。それは本当に悪かったと思う。だがな、お前が異世界人だろうがなんだろうが俺は全く気にしてねぇぞ?むしろ面白くていいじゃねぇか、ひと目みたときからお前のことは気に入ってたしな。喋れるようになって話してみて益々惚れなおしたぐらいだ。おっちゃんの懐の深さを甘くみちゃいけねぇ、成人してるって聞いて本当にうれしかったんだぞ?」
「チカ、俺もダグと同じ気持ちだ。そもそも君を奴隷商のところから引き取ったのも何か運命のようなものを感じたからだと思う。それに君は自分を汚れていると言ったがそんなことは決してない、むしろ異世界からきた君に対してこの世界の人間がした仕打ちを俺たちは償わなければならないと思っている。それでもまだ、君が君自身を許せないのであれば安心しろ、君にそんな思いをさせた連中をどんな手を使ってでも探しだして一人残らず俺が殺してやる」
ゲイルさんもダグラスさんも真剣な表情で私を見つめながら、私が想像もしなかった言葉をくれる。
ゲイルさんがとても良い笑顔で言った最後の言葉はちょっと気になったが本当にこの二人はどこまで優しいのだろうか……。
「本当に、本当に私でいいのですか……?」
「良いも悪いも選ぶ権利はむしろチカ、お前にあるんだぞ?まぁ、俺はもうお前のことを逃がすつもりはないけどな」
「ああ、俺はチカがいいんだ」
とてもうれしかった。
この一人ぼっちの世界で私を必要としてくれる、私を望んでくれる人がいるということが。
これは、依存心なのかもしれない、でもそれでも良かった。
「あの、『番』の意味とか、伴侶の役割とかこの世界のこともまだまだわからないことばかりで……ご迷惑をおかけすると思います。でも、私でお役に立てることでしたらなんでもさせていただくつもりです。なので……どうかお願いします、お側にいさせてください」
私は頭をさげる。
「そんなに難しく考えるな、チカは俺達のそばにいてくれればそれでいいんだ」
「ありがとうございます、私頑張りますので!」
「ならチカは俺達の伴侶になることを承諾してくれたってことでいいんだな」
突然、ダグラスさんが私の顎に手を添えて持ち上げる。
くいっと上を向かせられると目の前にはダグラスさんの顔があった。
そして、私の口に自身の口を重ねあわせてきた。
私のよりだいぶ大きいそれでまるごと覆われ、肉厚の舌が私の口内を蹂躙する。
上顎から下顎へと舌が縦横無尽に動き歯列をゆっくりと舐めあげられ、私の舌に絡みついてくる。
あまりの衝撃と快感に腰にも手にも力が入らなくなってしまった。
息の仕方がわからなくて身悶えていると後ろからゲイルさんの大きな腕がのびてきて身体を掴まれ、ダグラスさんから引き離された。
「お前は何をやっているんだ!?こんなところで盛るんじゃない!」
「いやチカには口で色々言うよりも身体でわからせてやったほうが実感がわくというか安心するんじゃねぇかと思ってな?」
「やっぱり支部長は支部長でしたね……」
私はあまりのことに恥ずかしさも相まって身体を抱えて小さくなりプルプルと震えていた。
「ほらな、こんな可愛いチカを見て我慢できるほうがおかしいだろ?」
「普通は我慢するんだ。チカ、君もあんまり煽らないでくれ」
煽る?どういうことだ?と思っていると
「チカ君。多分、自覚はないと思いますが君の容姿はとても魅力的なんですよ。今みたいにプルプル小さくなって震えてると、このお二人のような凶暴な獣には私を食べてくださいって言っているようなものです」
「そっ、そうなんですね……魅力的というのはちょっとわかりませんが気をつけます」
