Chapter 14 >>
14.ダグラス・フォン・レオニダス
色々と話し込んでいるうちにかなり時間が経ってしまったらしく、ずいぶん日も落ちてきていた。
「とりあえずチカ君のことは大体わかりましたし、残りはまた後日ゆっくり話しませんか?今日は大丈夫であればその骨折している部分を治そうかと思うのですがいかがでしょう?」
「骨折が治るんですか?」
「ええ、ただ体力も使いますし他人の魔力が流れ込むので痛みや不快感がかなりあると思いますが大丈夫ですか?」
「大丈夫です!お願いします」
骨折が治れば二人に迷惑をかけることも少なくなるし、家事で役立てるかもと期待があふれてくる。
「それでは治療しますが本当に痛みがあると思うのでゲイルさんしっかり抱いていてあげてくださいね」
「ああ、大丈夫だ」
「それではいきますよ、チカ君我慢できなかったら教えてくださいね」
そう言うとミンツさんは、私の骨折している右手を両手で包みこみ何か集中しているようだった。
ミンツさんの手を伝わって熱い何かが身体に流れ込んでくる。
力の流れる感じはゲイルさんやダグラスさんの時と同じなのだがその感覚が全く違う。
力が流れる部分がものすごく痛い、しかも吐き気を催すぐらい気持ちが悪かった。
なんとか歯を食いしばり、動かないようにして声をあげないようにするのがやっとだ。
額には脂汗をかいており、ゲイルさんがそれを優しく布のようなもので拭ってくれる。
「大丈夫か?チカ」
「ぐっ、あっ……だい……じょぶ……です……ああああ……」
やっと力の流れが消えて身体から力が抜ける。
「チカ君大丈夫でしたか?右手は動きますか?」
右手をぶんぶん振って動きを試してみたが可動域などに全く問題はなく痛みもなかった。
「はい、大丈夫です」
「ああ良かった、こうやって骨折を直しても上手く動かせない人もたまにいるもので」
その人達は筋肉や神経に大きな損傷を負っていたのではないだろうか。
話を聞く限りこの世界では解剖学なんていうものは全く学問として成立してないようだし、きっと神経伝達系や筋肉の概念や正しい役割が理解されていないのだろう。
だが私なら……。
「どうですか?だいぶ辛かったようですが今日はここまでにして足は後日にしますか?」
「いえ、ミンツさんが大丈夫でしたら足もぜひお願いします」
「チカすまねぇな、俺かゲイルが治癒術使えればそんな苦しい思いをさせなくてすむんだが……」
「いえ、お気になさらないでください。そういえば私のスキルに治癒術ってありましたけど私も使えるようになるのでしょうか?」
「ええ、ヒト族のチカ君なら少し訓練さえすればすぐに使えるようになると思いますよ。なんといっても魔力のランクがSSSですからねぇ、どんな力を発揮してくれるか楽しみです」
この世界でも人を癒やす技術を私は持っている、その事実がとてもうれしかった。
「そうなんですね、うれしいです。私が治癒術を使えればゲイルさんやダグラスさんがケガをされた時、不快感なく治せるんですよね?」
「チカ、君は……」
「チカ君は本当に健気ですねぇ、こんな力の強い獣人二人の傷なんてツバでもつけておけばそのうち治るんですから放っておけばいいんですよ」
「ミンツおめぇは俺達に何か恨みでもあんのか……」
「いいえ、ただこんな可愛いチカ君の『番』になられたことがちょっとうらやましいだけですが?」
「そうか……」
「それじゃ足の治療もはじめますね」
足も同じようにミンツさんの力が注がれると強い痛みと不快感を覚えたがなんとか耐え抜き、治療が終わると足の機能にも問題はなかった。
久しぶりに自分の足で歩いてみて少しふらふらしたがなんの違和感もなく安心した。
「ミンツさん、本当にありがとうございます」
「これぐらい大したことではありませんよ。でもよく我慢できましたね、大の大人でも嫌がられる方が多いのですが」
「まぁ、中身は子供ではないので……」
「とりあえず色々あったし、チカも疲れただろう?今日はもう帰るか?」
「いえ、私は大丈夫ですがみなさんこそお時間をとらせてしまいすみませんでした」
「だーかーらそんなに気を遣うなって、んでこれがお前のギルドタグな。でもこの中身は俺たち三人以外には絶対に見せるんじゃねぇぞ。必要な時は魔力の込め方で見せる部分を指定できるからやり方はまた今度教えてやる、いいな?」
そう言いながらダグラスさんが私の首にギルドタグのついた細い鎖をつけてくれた。
「はい、わかりました」
「それじゃそろそろ家に帰るか」
そう言ってダグラスさんは私を抱えあげる。
「えっあの、もう足も治ったので自分で歩けますが……」
「さっき試しに歩いた時にふらついてただろうが、まだ駄目だ」
そう言われると反論のしようもなかったのでおとなしく従った。
ここ数日ですっかり抱かれて移動することに慣れてしまった気がする。
ここに来た時と同じようにフードを目深にかぶり移動し、ギルドの一階まで降りたときに奥の方から馬鹿でかい声をあげながらこちらに駆け寄ってくる人がいた。
「おーーーい、ミンツ!お前どこ行ってたんだよ、探してたんだぞ」
「グレン……、その耳が痛くなるような大声はやめてくださいと何度いったらわかるんですか……。今日は支部長と補佐にお客様が来てたんです、ずっと支部長室にいましたよ」
「ん?てことは支部長が抱えてるその子がもしかしてミンツが最近通って治療したり、飯作ってた子?」
「ですから声が大きいです、確かにそうですけど」
「なぁ紹介してくれよ!俺はグレンな!狼族だ、ミンツの旦那だぞ」
「えっミンツさんのご主人なんですか?」
びっくりして頭をあげた拍子にフードが頭から外れてしまう。
周囲からざわっという声がして視線が集まってきているのがわかる。
まずかっただろうか……。
「うおおお!本当に黒髪黒目なんだな、しかもすげぇ可愛いし。いや、ミンツお前の方がもちろん美人だぜ?」
「はいはい、ありがとうありがとう。彼はチカ君です、これからギルドにちょくちょく顔を出すことになると思うので困っていたら助けてあげるんですよ。チカ君、これは不本意ながら私の伴侶のグレンです。馬鹿ですけど腕っ節はそれなりですし、悪い人間ではないので困ることがあったら頼ってくださいね。もう一人いるのですが今日はちょっと用事ででかけているみたいなのでまた紹介します」
人懐こそうな笑みをその精悍な顔に浮かべ、グレンさんはこちらを覗き込んでいる。
細身だがしなやかな筋肉がついているのだろうことが服の上からでもわかる。
そして、灰色の髪の上には同じ色の耳が顔を覗かせていた。
「ありがとうございます。グレンさん、私はチカユキといいます。よろしければチカと呼んでください。色々とご迷惑をお掛けするかもしれませんがよろしくお願いします」
「うわぁ、チカ君かー。俺にミンツがいなかったら求婚するところだなぁ、本当に可愛い。痛っ痛っ!何するんだよミンツ」
見るとミンツさんがグレンさんの獣耳をすごい勢いでひっぱっていた。
「グレン、言っておきますがチカ君は支部長とゲイルさんの『番』ですからね。これがどういうことかわかりますよね?」
「えっ!?」
「そういうことだ、グレン」
「もしチカに何かあったら……賢いお前さんならどういうことになるか、わかるよなぁ?」
ゲイルさんとダグラスさんの声が驚くほど冷たい……。
二人の顔は見えないが何か冷気のようなものを背後から感じる。
「はっはい!!もちろんです!」
グレンさんが軍隊ばりの敬礼をしている。
「それじゃよろしくな」
ダグラスさんはそういうとその場を立ち去ろうとしたので私は急いでグレンさんにお辞儀をしておいた。
三人で市場を歩いて家に戻る。
市場には夕食を買い求める人や食材を買い求める人、屋台のようなところで夕食を食べる人でごった返していた。
こんな風に人が生活しているのを感じるのは何年ぶりだろうか。
「今日の夕飯はどうすっかなぁ」
「あの、もしよろしければ私が作りましょうか?食材や調味料が少し違うみたいなのであまり凝ったものは作れませんが教えていただければ簡単なものならなんとかなるかと」
「チカは料理ができるのか?」
「ええ、一人暮らしが長かったもので休みの日など暇な時はよく料理をしていました。半分趣味みたいなものです」
「それはありがてぇな、俺たちはそのあたりがてんでだめでな。良い嫁さんをもらえたなぁゲイル」
「ああ、だが今日はやめておこう。まだ手も足も治したばかりで本調子ではないだろう?そのあたりの屋台で適当に買って帰ることにしよう」
「嫁……」
そうか番を受け入れるということは、私は二人の嫁なのか……。
うれしいような気恥ずかしいようなそんな気持ちだが幸せだった。
「じゃっ、じゃあ明日から頑張りますね。食材とか結構違うみたいなので色々とお聞きするかもしれませんが食べたいものとかあれば教えてください」
「肉だなぁ」
「肉を頼む」
即答だった。
ああ、そういえば二人は熊と獅子の獣人だった……。
熊は雑食のはずだが体格を見れば一目瞭然、そうですよね肉食ですよね。
「ごっ、ご期待に添えるよう頑張りますね」
そんなことを話しながら足早に帰路を進みつつもゲイルさんが屋台から色々なものを調達してきてくれた。
家についてからは、今度はダグラスさんの膝の上で食事をとることになった。
なんだかこのまま膝の上が定位置になりそうな嫌な予感がする。
ひき肉の入った揚げパンやハーブで炒めた鶏肉のようなものの美味しさに感動しながら二人をみているとやはり肉の塊がものすごい勢いで口の中に消えていっていた。
「お肉は焼いただけであまり味とかはつけないほうがお好きですか?」
「いや、そういう訳じゃねぇんだが今までこだわってこなかったからなぁ。俺もゲイルも料理はからっきしなもんで」
「では、ソースとか味付けをしても大丈夫ですよね?」
「ああ、もちろん旨いものを食えるに越したことはねぇからなぁ」
ふむふむと二人の好みを少しずつでも覚えておこうと頭の中にメモをとっていく。
食事も終わり、三人でお茶を飲む時間になって私は気になることを聞いてみた。
「あの、この世界のこともですができればお二人のことも色々と教えていただきたいのですがよろしいですか?」
「もちろんだ、まずはギルドタグ見せてやったほうがいいか。まだ俺のは見せてなかったよな」
ダグラスさんがギルドタグに力を注ぐと映像が現れる。
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名前:ダグラス・フォン・レオニダス 年齢:38
種族:獅子族(アニマ体)
居住地:キャタルトン 西地区
RANK:S
生命力:A
魔力:B
筋力:S
耐久力:B
敏捷性:SS
知性:B
所持スキル:格闘術 双剣術 短剣術 弓術 投擲術 サバイバル術 騎乗術 精霊術(地、水、光) 交渉術 帝王学 王族の心得
称号:獅子の王族 凄烈なる戦い手
状態:左腕欠損
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ん?ランクや能力もすごいけど称号欄になんかすごいものがある気がするんですが。
「あの、称号に気になるものがあるのですが獅子の王族って……」
「こいつはこんなだが、レオニダスの王族。レオニダスというのはこの国の隣にある獅子族が治めている国の名前だ」
「王族っていっても兄貴が立派に王をやってるからなぁ、俺は不肖の王弟さ」
首をすくめておどけた仕草でダグラスさんが答える。
王弟?今、王弟っていいましたよね?
「えっ、あの王族ってこんなところで生活していてもいいものなんですか……?」
「ちょっと色々と理由があってな、それも追々ゆっくりと話してやろうと思うがまぁ気にするな。この国にいるのも訳があってのことだ」
「ですがダグラスさんは王族だったらその王位継承権とか、後継者問題とかそういうのはいいのですか?私のようなものが伴侶だとなおさら問題なのでは……?」
「ああ、それも問題ねぇ問題ねぇ。俺は継承権放棄してるし、もう兄貴には子供が二人もいるしな。俺にはそんなこと期待されてねぇよ。むしろ、チカみたいな魔力の高い可愛いヒト族を嫁にしたって報告したらよくやったってほめられると思うぞ?」
「そっそうなんですか……」
「そういえば兄貴の嫁さんと子供の片方はヒト族だったな、機会があったら会わせてやるよ」
自分と同じヒト族かそれは会ってみたい。
そしてちょっと気になることがあった息子の片方はヒト族という部分だ。
「あの、今お兄さんの息子さんがヒト族だと言われたと思うのですが獅子族とヒト族の間からヒト族が産まれるんですか?」
「そういえば説明してなかったか、違う種族間で子作りをした場合にどちらの子供が生まれてくるのかは完全に運だな」
「でっでは、もし私とゲイルさんかダグラスさんがこっこっこっこっこ子作りをしたとして、うっ生まれてくるのは、ゲイルさんとであれば熊族かヒト族、ダグラスさんとであれば獅子族かヒト族が生まれてくるということであってますか?」
「ああ、そうだな。でも俺はどっちかっつうとチカに良く似たヒト族の子供が欲しいなぁ」
「俺はチカとの子であればどちらでも構わないぞ」
「なんだチカ?もう子供のことまで考えてくれてんのか?」
「いっいえ、獣人の方の子供のころを知らないもので熊族でも獅子族でもきっと可愛いんだろうなぁと想像してしまいました」
「んー可愛いかどうかと言われれば難しいな、なんつっても生まれてしばらく獣人は獣の姿だからな。」
「えっ!?そんなの最高に可愛いじゃないですか!?ああ、絶対にお二人に似た子のほうが……」
そこまで言いかけてこれでは子供を作りたがっていると勘違いされてしまうと思い、話題を変えることにする。
そして私はずっと聞きたかった二人の関係について聞いてみることにした。
「ところでゲイルさんとダグラスさんはお友達?なんでしょうか?お付き合いは長いんですか?」
「俺とゲイルは幼なじみみたいなもんだ。ゲイルの親父がレオニダスの騎士団長で俺の親父に仕えていたんだがそのつながりで小さい頃からよくつるんで遊んでいた。まぁ弟みたいな感じだな」
「本来であれば俺はダグの家臣という立場になるんだがこいつがそういうのを嫌がってな。俺も親父の跡を継ぐために士官学校を出て、騎士になったがこいつが冒険者になるといって飛び出したんでその護衛も兼ねて俺が選ばれたってわけだ。まぁ腐れ縁って奴だな、まさか伴侶まで同じになるとは思わなかったが」
ダグラスさんとゲイルさんは互いに苦笑していた
