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8/19/2022

     Chapter 7 >>


7.二人のご主人様


「おーい、準備できたぞー」


遠くからダグラス様の声が聞こえた。


「わかった。すぐに行く」


ご主人様は返事をされるとそばにあったすっぽり被れるほど大きなシャツを着せてくださり、私を抱きかかえられる。
突然のことに驚いてしまう。


「足も折れているし、まだ体力も戻ってない。しばらくは自分で歩くことは禁止だ」
と告げられたのでおとなしくそれに従ったが、正直お姫様抱っこは恥ずかしかった……。


抱きかかえられて運ばれているとご主人様の歩き方がやはり何かおかしい。
ダグラス様は左腕が欠損していたがご主人様も何か足に障害があるのだろうか?
色々と考えているうちにダグラス様がいらっしゃる部屋へと到着する。
そこは明るく広い部屋でキッチンとリビングのようだった。
リビングには大きめのソファと机、それとは別に食卓用の机と椅子がある。
ここまできたら大丈夫だと降ろしてもらいたくてジェスチャーで訴えてみたがスルーされてしまった。
ご主人様たちは食卓の椅子に座られるだろうが自分はどうしようと考えているとご主人様は私を抱きかかえたまま椅子に腰掛けられる。
大きく持ち上げられ、膝の上に私をちょこんと座らせた。


「自分は奴隷だから床に座ろう。などと考えていただろう?もとより床などに座らせるつもりはないし、しばらくはここが君の座る場所だ」
「ちょっ、お前ずるいだろ……。俺も坊主を膝に乗せてやりたいんだが」
「まぁ、それはあとで相談だな」
「くそっ、絶対に独占はさせねぇからな!よしそれじゃ食うか!」


何か良くわからない会話がお二人の間でかわされていたがその間も、私は目の前に並んだ料理に目を奪われていた。
しっかりと具の入ったスープに軽くトーストされたパン、そのそばには薄くスライスされたハムのようなものが添えられており、新鮮な野菜のサラダもある。
昔の私にとっては至って普通の朝食なのだが、今の私にとってはものすごいご馳走にしか見えない。
これを食べさせてもらえるのだろうか?


「全部食べさせてやりたいんだがしばらくスープしか飲んでいないんだ。悪いが少しずつな」


いえ、少しでも食べさせてもらえるだけでありがたいです。
どうすればいいんだろう?
自分で食べるのだろうか?と考えているとご主人様がスープをスプーンで掬い、私の口元に持ってきた。
おおう、そうこられましたか……。
確かに右腕は骨折して固定されているので仕方ないといえば仕方ないのだが、介護されるのはまだ早いと思いつつも口を開けた。
スプーンが口の中に入ってきて、スープが舌の上にゆっくりと落とされる。
奴隷時代に飲んでいた塩味だけで下手をしたら半分腐っていたスープとは違い、しっかりとした出汁の味がついている。
優しい野菜の旨味や香草の香りが口の中に広がり本当に美味しい。
私は思わずまた泣いてしまった。


「ん?どうした熱かったか?それとも苦手な味だったか?」


全力で首をぶんぶんと横に振って違うことを示した。


「あぁ、どうせろくなもの食わせてもらえてなかったんだろ……大丈夫だ!体調さえ良くなれば、肉だろうが魚だろうがなんでも好きなものおっちゃん達が食わせてやるぞ!お前はちょっとやせすぎだからな!しっかり食べさせて肉をつけさせてやるから安心しろ!」


その言葉でまた涙がでてしまった。
その後、ご主人様はスープを次々と口にはこんでくださり、私は一生懸命それを飲み干していく。
トーストされたパンはスープにしっかりと浸してふやかせてから口に入れてくださり、スープの旨味とパンの香ばしさがあわさってとても美味しかった。
ただ、今までろくなものを食べていなかったせいかスープ一杯とパンを少し食べただけでお腹がいっぱいになってしまい、お二人はおかわりをすすめてくださったがそれ以上、食べることができなかった。


「まぁ少しずつ量を増やしていけばそのうち食べられるようになるだろうから、気長にな!」


ダグラス様が声をかけてくださった。
お二人に食事のお礼を口で言えないのが本当に悔しかったが一生懸命頭を下げて感謝の気持ちを表現してみたら通じたようで


「いいからいいから」
「気にする必要はない」


お二人から返事を頂くことができた。


その後、ダグラス様は出かけられるようで私はまたご主人様に抱えられ寝室でベッドに寝かされる。


「これは熱さましの薬湯だ。もう必要ないかもしれないが念のため飲んでおこうな」


ご主人様から渡された器には緑色の液体が入っており、ちょっと躊躇したが一気に飲み干してみる。
確かに苦かったが蜂蜜のような甘さがありなんとか飲むことができた。


「良し、いい子だ。喉が渇いたらすぐに俺を呼ぶように。ここに呼び鈴を置いておくから鳴らすんだぞ?昼飯も食べられるようだったらその鈴で呼んでくれれ良いからな」


そんなことをご主人様にさせても良いのだろうかと思いつつもうなずいておく。


「できれば君のことを色々教えてほしいのだが、話すことができないとそれも難しいな……。ダグがきっと解決策を見つけてくるだろうからもう少し我慢してくれ」


ご主人様はそのまま部屋を出て行かれた。
私は起きてから今にいたるまでに自分の身に起きたことを考えてみる。
ご主人様と同じベッドに寝かされており、全身の傷も丁寧に手当てをされていた。
怯える私にも優しく接してくださり、「奴隷として扱うつもりはない」とまでおっしゃってくださった。
奴隷である私を抱きかかえてくださり、膝の上にのせてご主人様達と同じ食事も食べさせていただいた。
ご主人様もダグラス様もとてもお優しいし、私を気遣ってくださるように感じるが本当にお二人のことを信用してもいいのだろうか……?
少し不安にはなったが今に至るまで実際に痛いことも辛いこともされていない。
むしろ、手厚く保護されているようにすら感じる。
ならば、現状が少しでも長く続くようお二人の機嫌を損ねてはならない。
自分に出来ることであればなんでもしようと心に決めた。
だが自分には何ができるのだろうか?
この身体になってからは体力もないし、あるのは二十年近く培ってきた医学の知識と技術ぐらいだ……。
その知識を今の自分の立場で役立てることができるとは思えない。
まずは、家のことをやらせてもらおう。
幸い家事や料理は長い一人暮らしのおかげで得意だ。
ご主人様達は男の二人暮らしのようだし、多少は役に立てるだろう。


現状や今後について考えているうちに少しずつ目蓋が重くなってきた。
こんな柔らかいベッドで性行為をすることもなく横になるのは、何年ぶりかでその気持ち良さにあっという間に睡魔に襲われた。




「――君……おき……か」


何やら声が聞こえて肩を揺さぶられている。
まどろみの中で目を覚ますと、正面に三人の男性の姿があった。
はっと自分の状態を思い出し、急いで身体を起こそうとする。


「ああ、すまない。無理はしなくていい、横になったままで話を聞いていてくれるか?」
「わぁ、本当に黒髪黒目なんですね。可愛いなぁ、あいつらがいなかったら私が面倒見てあげたいぐらいですねぇ。」
「おい、ミンツ。坊主がびっくりしてるだろ、挨拶ぐらいしねぇか」
「おっと、申し訳ない。私はミンツ、兎族ですよ。ギルドの衛生部で支部長の部下として働いています。専門は治癒術と薬学。あとは、このむさ苦しい男二人暮らしの面倒をたまに見に来ています」


見惚れるような笑顔で自己紹介をしてくれたミンツさんは、ものすごい美人さんだった。
肩よりわずかに長いピンクブロンドのストレートの髪に、はっきりとした目鼻立ち。
中性的な美しさで、その頭にはピンと伸びた兎の耳があり、美しさに愛らしさを加えている。
ご主人様達とは違った方向性で同じぐらいもてそうな雰囲気があった。
自分も自己紹介をしたかったが、何度も頭をさげることしかできなかったのが残念だ。


「それで彼の首についている奴隷用の魔法具ですが、外すことは出来るみたいですよ」
「本当か?」
「ああ、それを調べにギルドに行ってきたんだが奴隷の契約書と魔法具の扱いに詳しい人間がいれば、簡単に外せるらしいぞ」
「契約書は問題ないとして魔法具の扱いに詳しい人間となると……」


ご主人様は顎に手をあてて考え込まれている。


「先日ゲイルさんが買い物に行かれた南地区のマルドさんを訪ねてみたらいかがですか?」
「そうだな、とりあえず明日にでも早速坊主を連れて行ってみるか」
「いや、俺が彼を連れていくからダグはギルドに行っていいぞ」
「お前は今日一日坊主の面倒見てたじゃねぇかよ!明日は俺だからな!!」
「まだうまく歩けない彼を連れて行くには俺の方が都合がいいだろう?」
「坊主ぐらい俺が片腕でひょいっと抱えていけるっつーの!!」
「彼に負担がかかるだろう?」


なんだかご主人様とダグラス様がものすごい言い争いを始めてしまった。
それを見ていたミンツさんが呆れたような顔で止めに入る。


「わかりました!明日の仕事は、私がなんとかしておきますのでお二人で行ってきてください。ただし、帰りにギルドに三人そろって顔を出してくださいね。その時に彼の足と腕の治癒をどうするかもご相談しましょう。それでいいですね?」


有無を言わせない口調でミンツさんが告げ、ご主人様とダグラス様はうんうんとうなずいて肯定の意を示していた。
なんとなく三人の力関係が把握出来た気がする。


「このお二人は、ちょっと大雑把だったりがさつだったりするところもありますが、信頼しても良い方ですよ。今まで本当に大変でしたね……。何か困ったことがあったらいつでも私を頼ってください」


また優しく頭を撫でられた。
主人様達の元へ買われて来てからやたらと頭を撫でられている気がする。
こちらに来た時の身体の特徴とこちらで過ごした年数をあわせて考えると、自分の外見年齢は大体16歳か17歳程度にはなっていると思うのだがそんなに子供っぽく見えるのだろうか?


「それでは、スープばっかりじゃ栄養もつきませんし。彼も食べられるお腹に優しいものでも作りましょうか」
「いつもすまないな、頼めるか?」
「まかせてください!美味しいもの作ってあげますから待っててくださいね」


そう言うと軽い足取りでミンツさんは部屋から出て行く。
キッチンへと向かったらしい。
部屋にはご主人様とダグラス様が残り、なぜか私の眼の前で睨み合われていた。


「それじゃ、明日はお前と俺二人で坊主を連れていくとして今日の面倒は俺が見ていいよな?」
「それなんだがもう意識も戻ったことだし、別に俺が面倒を見れば問題はないんじゃないか?」
「ずりぃ!俺だって起きてる坊主にあれやこれや世話をやいてみてぇんだよ!!」
「わっ、わかった」
「じゃあ、移動と食事と一緒に寝るのは俺な」
「ちっ、しょうがない了解だ」


私のあずかり知らないうちに私をどう扱っていくかが決められたようだった。
そこまで面倒をかけてしまうのを申し訳ないと思いつつも、ご主人様たちの決定に逆らうことはできない。


「明日は忙しくなりそうだな。早めに家をでてマルドの店に坊主を連れて行き、首尾よく呪いを解くことができたらそのままギルドに直行だな。そこで坊主の骨折をどうするか決めて、できればギルドタグの登録までしちまいたいところだが」


ギルドタグとはなんだろうと首を捻って考えこむ。


「あぁ、もしかしてギルドタグ知らねぇのか?冒険者や市民が身分証代わりに使うものなんだがゲイル見せてやってくれよ」
「ああ」


ご主人様は胸元から銀の鎖に繋がれた金属製の小さなプレートを取り出すと、それに手を重ねあわせ何か力を込めているようだった。
すると、そのプレートから上側にホログラムのような映像が現れた。


*************************************


名前:ゲイル・ヴァン・フォレスター 年齢:36
種族:熊族(アニマ体)
居住地:キャタルトン 西地区
RANK:S
生命力:S
魔力:C
筋力:SS
耐久力:A 
敏捷性:A
知性:B
所持スキル:格闘術 大剣術 剣術 槍術 弓術 鞭術 サバイバル術 騎乗術 精霊術(風、火) 騎士の心得 尋問術   
称号:護衛騎士 堅固なる護り手
状態:左足首機能不全


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おお、なんだか良くわからない技術だがすごい……。
ご主人様は36歳か、そうだろうとは思っていたが実際の私の年齢よりは年下である。
そして気になったのが状態の欄に表記されている左足首機能不全という表記であった。
抱きかかえられ、歩かれた時に感じたあの違和感はやはり左足になんらかの障害があることによるものだったのだろう。
どうにか私の医学知識を役立てられないかと思いかけたところで、検査のための設備や医療器具なしではどうにもならないことに気づき、己の力不足が身にしみるようだった。


「これがあれば身分証にもなるし、国の行き来も自由にすることができるんだ」
「登録には魔力を流す作業が必要なんでな、明日坊主の呪いが解けたらの話だがきっと解けるさ。心配しなさんな」


なるほど、免許証やパスポート代わりになるものということか。
私にそれが必要なのかはわからなかったが、今見せてもらったように自分の持ってる能力もわかるのであればぜひ見せていただきたい。
そうすれば、自分にも何か役に立てる能力があるか分かるかもしれないと少し希望がわいてきた。


「準備できましたよー」
「おっ飯だ、飯だ。坊主行くぞ」


ダグラス様はそう言われると右手を私の膝の下に差し入れ、抱きかかえ、胸元へ私の背中をのせる形にされると、とても器用に片腕で抱きかかえてくださった。
この体勢だと自分の顔のすぐそばにダグラス様の顔があるのでちょっと気恥ずかしくて顔が赤くなってしまう。


「おっなんだ、坊主照れてんのか? こいつめ」


ダグラス様が私の顔に顔をすりつけてこられる。
不思議と全く嫌悪感はわかなかったが無精髭のじょりじょりが痛かった。
ダグラス様からは甘い熟れた果物のような匂いがわずかにしていて香水でもつけられているのかな?と、さすがもてそうな男は違うなぁと思ったぐらいでこの時は深く考えていなかった。

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