8/17/2022
Chapter 4 >>
4.看病 その1
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ゲイルが奴隷を買ってきたと聞いたときは本当に驚いた。
俺ももちろん嫌いだがそれ以上に、あいつが奴隷売買にどれだけ嫌悪感を抱いていたかは俺が一番良くわかっているつもりだ。
それに、他人に対してあまり関心をもつことが少ないゲイルがあれほど一人の人間に関心を寄せているということも気になる。
ただ、その奴隷の様子を見ればゲイルがそうした理由もすぐにわかった。
本当に悲惨でむごすぎる。
戦場や魔獣との戦いで死体やひどい傷を負ったものは見慣れているつもりだったがあの仕打ちは……、こんな幼い子どもにしていいもんじゃねぇ。
いつか坊主をあんな目にあわせたやつらを断罪してやると心に決める。
しかし、今眼の前には先ほどと比べるといくらか穏やかな表情で寝息を立てている坊主の姿がある。
それを見るとなぜかそれだけで幸せな気持ちになっちまうのはなんでなんだろうか?
確かに俺は子どもが好きだし(性的な意味ではないぞ)、どんな子どもでも可愛がってやらなければいけない、守るべきものだという意識はある。
だが、この坊主を見ていると心の奥底から湧き上がってくるこの感情がなんなのか自分でもわからない。
確かに坊主の見た目は可愛いし、はっきり言って好みだ。
だが、見た目が可愛いからという理由だけでは説明できないこの感情。
この坊主を組み敷いて鳴かせてやりたい、出来ることなら全身を涙の一滴まで貪り食ってやりたいという嗜虐心にも似た気持ちと、自分の腕の中で大事に大事に守ってやりたい、どろどろに甘やかしてやりたいという相反する気持ちがせめぎあう。
獲物を見つけたら決して逃すことはない、獅子族としての本能が顔を少しのぞかしちまっている気がした。
こんな年端もいかない子供を見て俺はどうしちまったんだろうか?
もしかして、この坊主が俺の『番』なのだろうか?とも考えてみたがそれに対する答えがでることはない。
ただ、この坊主が俺の『番』だったら最高なんだがなぁと思いつつ坊主の額や髪をなでてやる。
無意識に、小ぶりな耳などにもついちょっかいを出しちまっている。
それに顔をしかめて反応する坊主がとても愛らしくて顔がにやけてしまうのが自分でもわかっちまった。
ゲイルが口移しで飲ませてやったと聞いて、驚いた以上にちょっとばかし嫉妬しちまったしな。
まぁ次は俺が薬を飲ませてやろう。
その時が今から楽しみだ。
そうこうしている間にゲイルが風呂から上がってきた。
坊主の様子も落ち着いているし、食事にするかと俺は部屋を離れることにした。
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ダグと二人でミンツの作ってくれたスープを少年に飲ますための量を残してたいらげ、簡単な夕食を済ませた。
明日からの少年の食事をどうしたものかと考えたがまぁその時になって考えればいいかと一旦保留にしておく。
「それじゃそろそろ寝るかぁ。お前のベッド、坊主に貸しちまってるけどどうする?」
「構わない」
「構わないってどうするつもりだ?ソファはお前の身体だと無理だろう?」
「問題ない、俺のベッドは大きい。彼が寝ていても問題なく添い寝はできる」
「っ! お前一緒に寝るつもりかよ!?」
当たり前じゃないか。
今の彼を一人で寝かせるなんて考えられない。
「そうだが?もし、寝ている間に彼に何かあってもすぐに気がつく」
「確かにそうなんだが……んーまぁいいや、じゃあ今日はお前で明日は俺な」
「なんでだ、別に俺一人で十分だが?」
「お前が良くても俺が良くねぇんだよ」
むしろ、俺一人で面倒を見たいぐらいなのだがダグがそういうのなら仕方がない。
「?わかった。それでは日替わり交代で頼めるか?」
「おう、それじゃ坊主の面倒しっかり見てやれよ。おやすみ」
そう言い残すとダグは自分の寝室へと消えていった。
水分は摂らせた方がいいだろうと水を用意し、彼が寝る寝室へと向かう。
彼の様子を伺うとまだ汗はでているようだが随分おだやかな表情になったような気がする。
彼のそばに腰掛け、汗を拭ってやり、口移しで水を飲ませてやる。
喉は渇いているようで一生懸命に俺から与えられる水を嚥下しようとしている姿は――小動物に餌をやるときの気持ちに似ており癖になりそうだ。
俺はいつもどおり上半身裸になると彼のそばへと潜り込んだ。
本当は抱きしめて寝てやりたいが骨折している上に、まだ鞭で打たれた傷も完治はしていない。
しょうがないと腕枕をしてやると正面を向いて寝ていた彼の身体が俺の方へ向き、身体をぎゅっと丸めると丁度、俺の胸元に彼の額が来る形になる。
身体を湯で拭ってやっただけで風呂にもしばらく入っていないだろうに彼からは決して嫌な臭いはせず、わずかに爽やかな森のような香りがした気がした。
そのまま彼の頭を包み込むようにもう一方の腕を回す。
俺は目を閉じると彼の少し高めの体温が心地良くいつのまにか寝入ってしまった。
翌朝、目が覚めて確認したが彼の意識はまだ戻っていない。
だが、呼吸も安定しており、顔色も悪くないので問題はないだろう。
手早く自分の身を整えると、彼に昨日のように残りのスープと水、薬湯を飲ませ(試しにはちみつを混ぜてやったら多少は飲みやすくなった)、全身の傷跡に薬を塗り包帯を換えてやる。
そういえば尻にも薬を塗ってやらなければならなかったことを思い出し、あの無惨に裂けた哀れな状態が頭に浮かび、苦々しい気持ちになってしまう。
あれだけひどい裂け方をしていたということはきっと獣体で彼を犯した奴がいたのだろう。
もし、目の前にそいつがいたら俺の持つあまり人には見せられない技を全て使って殺してくれと懇願するまで拷問を加えてやりたい気分だ。
意識がない彼の尻を見ることに若干申し訳なさを感じつつもうつ伏せにし、足を軽く開かせて患部の様子を確認する。
多少の腫れや傷はあるもののかなり良くなってきているようだった。
指先にたっぷりと傷薬をつけて優しく塗ってやる。
奥まで塗るべきなのか悩んだが、ほんの少し指先を入れて塗り込めるにとどめておいた。
ダグも起きてきたようで二人で簡単な朝食をすませると今日はどちらがギルドに顔を出すかでもめにもめた。
結局、ダグに押し切られる形で今日は俺がギルドに顔を出すことになってしまった。
言葉の勝負でダグに勝つことは俺にとっては魔獣に単騎で向かっていくことよりも難しい。
別に仕事に行くのが嫌なわけではない、彼のそばで看病をしてやりたいのだ。
できるだけ迅速に仕事を終えて帰ってくることを心に決め、俺はギルドへと向かった。
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