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8/17/2022

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Chapter 2: 買われて

私は自分の耳を疑った。

顔もボコボコ腫れておりその造形もきっとわからない、いたるところにケガをしており、自分でいうのもなんだがはっきりいって衰弱しきっている。

労働力としても性奴隷としての価値も今の自分にはないと思うのだが……。

奴隷商と私を買おうと言った人は交渉に入ったらしく何やら言い合っている。

しばらくして交渉がまとまったようで私は檻から出され、その人のもとに連れていかれた。

「それではこちらが権利書でございます。しかしながら、あまりこの奴隷は長持ちしないと思いますよ?返品は利きませんが本当によろしいのですか?おい、お前さっさと新しいご主人様にご挨拶をしないか!」

私の背後にいた奴隷商が私を買った人――いや新しいご主人さまの前に私を突き飛ばした。

しかし、体力も限界に来ており、足も骨折しているため立っていることが出来ず、ぺたりとご主人様の前に座り込んでしまった。

ダメだ……これではまた折檻を受けてしまう……と、土下座の姿勢で身体を震わせていた。

すると、ご主人様は無言で私の身体をひょいと脇に片手で担ぎあげ何も言わずその場から離れた。

片手で担ぎあげられたことに驚いて一瞬放心していたけれど、ご主人様にこんなことはさせられないと必死で降ろしてくれるようにご主人様へジェスチャーで訴えてみる。

しかし、「そのケガではとても歩けないだろう。良いからおとなしくしているんだ」と一刀両断されてしまい、更には横抱きに抱き変えられた。

これ以上、逆らっては逆にご主人様の機嫌を損ねてしまうかもしれないと私はおとなしく言われるままに抱きかかえられていることにする。

人一人を抱えているにも拘らずご主人様の足取りは重さというものを感じていないのだろうか?と思えるようなものだった。

しかし、その歩き方はどこか片足を引きずって歩いているような印象を受ける。

抱きかかえられていると言っても衰弱しきった身体にはかなりの負担で途中何度か意識を失いそうになったがなんとか耐えた。

しばらく歩き続けるとご主人様は私を抱きかかえたまま段差を何段かのぼり、ドアを開ける音がする。

そのまま、ご主人様が中へと入っていかれると張りのある大きな声が奥の方から聞こえてきた。

「おっなんだ、ゲイルか。おかえり……ってその抱えている荷物はなんだ!?」

「買った」

「ちょっ、えっ?買ったって……えっ!奴隷?お前奴隷買っちゃったの……?」

「そうだ」

「えっなんで!?ってまぁそれは後でいいや。いつまでそうやって抱いてんの降ろしてやんなよ」

もう一人の男の人に声をかけられるとご主人様は私をそっと床に降ろしてくれた。

本来ではここでご挨拶をしなければいけないのだが、私は喋ることもできないし、足の痛みで立っていることも難しい。

叱られるのを覚悟の上で膝をついて土下座の体勢をとってひたすら震えることしかできない。

そうしているうちに体力の限界が来てしまい、私はそのまま闇の世界へと意識をのまれてしまった。

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抱えていた奴隷の少年を床に降ろしてやると、突然その場に膝をついて床板に頭を擦り付けて震えはじめた。と思った瞬間、少年の身体から力が抜けてその場にくたっと倒れこんでしまった。

慌てて抱きかかえてみると息はしているようだったが熱があり、顔色はひどく悪い。

「おい、大丈夫か?」

「ああ、息はしているがすごい熱だ。まずは休ませてやろう」

「そうだな。まぁ説明は追々してくれよな。お前が突然奴隷を買ってくるとかちょっと本気で驚いたんだからな」

「わかっている。だがまずはこの子をどうにかしてやらないと……」

「とりあえずそのボロキレみたいな服を脱がせてやってから風呂に……いや体力がないときに風呂はダメか。身体を拭いてからベッドにでも寝かせてやろう。顔も殴られてるみてぇだし、ミンツに連絡しておけばその頃にはこっちに来てくれるだろ」

俺は近くのソファに少年を横たわらせ、身体を拭くためのお湯とタオルを取りに浴室へと向かう。

必要なものを両手に抱えて少年の元へ戻るとダグが少年の服を手に眉間に皺を寄せ、コメカミには青筋を浮かべて少年の身体を見つめていた。

どうしたのかと俺も急いで駆け寄り少年の姿を見て絶句してしまう。

そこにはあまりに無惨な光景が広がっていた。

少年の身体はほとんど骨と皮だけだった。

背中一面にはきっと鞭で打たれたのであろう傷口が広がり、ミミズ腫れや裂傷になっている。

古いものからまだ血を流している新しいものまであり、それが背中だけでなく腹にまで広がっていた。

「こいつまだ成人前だよな……?そんな子供を顔がわからなくなるまで殴りつけておいて、身体はこんなになるまで鞭で打つとか本当にあいつら胸糞悪ぃ……」

「ああ……」

「奴隷制が残ってる国なんてここだけなんだからさっさと滅ぼすなり、圧力かけるなりしてやりゃいいんだよ……。クソッ……!」

ガッ! とダグが床を蹴りあげる。

ダグは見かけによらず子供好きだ。

俺も眼の前の光景には怒りしか浮かばないが、ダグはそれ以上に腸が煮えくり返っているのだろう。

「左足と右手が骨折しているな、うまく立てないようだったからおかしいと思っていたが……」

「まじかよっ!?」

ダグは頭を抱えて顔を真っ赤にしている。

俺は最悪の予想が外れてくれることを祈りつつ、うつ伏せにした少年の尻を広げてみるとそこはずたずたに裂けて血の塊がこびりついていた。

「性奴隷だったみたいだな……」

「っ……!」

ダグがたまらず覗き込んできて更に言葉を詰まらせる。

「ふざけんなよ!!人間のすることじゃねぇだろうがっ!?」

「まずは身体を綺麗にしてやろう。他のことはそれからだ」

「そうだな。ミンツが来れば表面的な傷は治してやれるか……」

俺とダグは二人がかりでお湯とタオルを使い、少年の傷口に付いている汚れと血を出来るだけ優しく拭い取ってやる。

タオルはすぐに真っ黒になり、お湯を何度も何度もかえてようやく汚れはほとんどなくなった。

髪の毛も負担にならないようにダグが片腕で少年を支え、ゆっくりとお湯をかけもみ洗いをしてやると汚れが綺麗に落ちていく。

汚れている時は、分からなかったが少年の髪は完全な漆黒だった。

「黒髪かよ、それで狙われたんだな」

「そうだろうな。奴隷商のところで少しだけ目があったんだが瞳も黒だったぞ」

「黒髪黒目かよ!?しかもこいつヒト族だろ!?はぁ、そんな珍しいのがいたらそりゃ目をつけられるわなぁ……」

一般的にヒト族は、魔力の質が高ければ高いほど瞳の色や髪の色が濃くなると言われている。

黒髪で黒目のヒト族なんて伝説か物語の中でしか聞いたことがなかったが本当に存在したとは……。

一通り身体を拭き終えてから、まだ新しい傷口に常備していた塗り薬を塗っていく。

治癒術を使えばある程度は良くなるだろうが治癒術は対象の体力の消耗も激しい。

きっとそんなに強い治癒術を少年にかけることをミンツはしないだろう。

「俺は湯とこれを片付けてくる。お前は彼をベッドまで運んでやってくれ」

「よっしゃまかせろ。って軽っ!なにこれ軽すぎるだろ……。まぁ、よく見なくても完全に骨と皮だけだもんなぁ……。もう大丈夫だからなぁ。よーしおっちゃんにまかせろ。どんどん食わせて肉をつけさせてやるからな!」

ダグは少年を器用に右手で小脇に抱きかかえると最後の方は涙声になっていた。

長い付き合いになるがやっぱりこいつはイイ奴だと改めて感じる。

俺が浴室へ湯を運び後片付けをしていると家の入口の方から

「おじゃましまーす」と元気な声がした。

ミンツが来てくれたらしい。

俺は急いで片付けを終えるとミンツの元へ急ぎ、寝室へと案内した。

「いやぁ、支部長から緊急の用事あり治療道具一式抱えて至急、我が家まで来るようにって連絡があったもので何が起きたのかとパニックになりながら全力疾走でやってまいりましたよ!で?ご用件はなんでしょうか?」

「わざわざすまねぇなミンツ。本来ならこちらから出向くべきなんだろうがそういう訳にもいかなくってなぁ。それでこいつの傷をちょっと見てやって欲しいんだが」

そういいながらダグはベッドに寝かせている少年にかけていたブランケットをめくりあげた。

傷だらけの少年の姿を見てミンツが目を見開く。

「えっ!?ちょっ!なにこれひどすぎません?えっ!?支部長……、人の性癖については私は口を出すつもりはありませんがこれはちょっとあんまりじゃないですか?少年趣味だというのは、まぁ……百歩譲って、いやそれも犯罪ですけど……ここまで痛めつけるのはちょっとそういうプレイだとしてもひどすぎませんか?そもそも支部長がここまでの嗜虐趣味だったなんて初めて知りました。あっ!だから今までお付き合いされた方とも長く続かなかったんですね?ところでこれは同意ですか?同意の上でのことなんですか?もし、そうでないなら支部長といえども私は訴えるところに訴えてでる所存ですが?」

こちらから口を挟む余裕を一切与えないミンツからの口撃にダグの顔はどんどん真っ赤になっていく。

コメカミがピクピクと動き、顔は完全に引きつっている。

「ふざけんじゃねーぞ!!俺は少年趣味でもこんな嗜虐趣味でもねぇからな!こいつはゲイルが奴隷市で買って来たんだよ!家に連れ帰った途端、気を失って倒れこんで熱もあるし顔色も悪い、しかも服を脱がせてみりゃこの有様だ。だからお前を呼んだんだ!わかったか!?」

「えっ、ゲイルさんが奴隷を……?じゃあ少年趣味はゲイルさんの--」

「それはもういい。まずは彼の傷を見てやってくれ顔面の打撲、上半身全体に鞭による裂傷、左足と右手は骨折している。あと、肛門周りの裂傷もひどい」

そこまで聞くとミンツは顔を歪ませて少年に近づくと少しずつ患部の様子を見始めた。

「性奴隷、だったんですね……。こんな子供にむごいことを」

少年の全身の様子を一通り観察し終えるとミンツは悩ましそうな顔で話し始める。

「裂傷は深いものも多いですが致命的な傷はありません。骨折も固定して処置をすれば大丈夫でしょう。ただ発熱と衰弱が著しいです。この状態だと私の治癒術では本当に最低限しか治すことができません」

そこまで言うとミンツは大きくため息をつく。

「ご存知だとは思いますが、治癒術は傷口の修復に自らの体力や生命力を非常に多く使います。今の彼にあまり強い治癒術をかけるとそれだけで衰弱死しまうかもしれません。まだ出血しているような傷口だけは治癒しておきますが、その他の部分は体力の回復を待って判断した方がいいでしょう。どちらにしろ、栄養と休息をしっかりとらせてあげて看病をしてあげる必要があると思います」

ミンツは少年の顔を包み込むように手を添え目を閉じ、真剣な顔で力を注ぎ始める。

ミンツから少年に注がれた光は全身を包み込むと少年の中へと吸い込まれ消え去った。

「ふぅ、今はこれぐらいにしておいたほうがいいと思います」

少年の身体を見ると血を垂れ流していた傷は塞がってうっすらとした痕を残した状態になっている。

ボコボコに腫れ上がっていた顔は腫れがひき、元の相貌を取り戻していた。

「こいつは、かわいいな……」

「確かにかわいいですね……」

「………………」

口には出さなかったが正直俺も可愛らしいと思っていた。

なんというか庇護欲をそそるというのがぴったりな容姿だ。

「目をあけたらもっと可愛いだろうなこれは……」

「やっぱり支部長ショタコ……痛っ、支部長冗談ですって……。げんこつはやめてくださいよぉ……」

ダグからの鉄拳制裁を受けてミンツは涙目になっていた。

ミンツは少年への治癒術を終えると傷口に薬を塗り、包帯を巻きつけるとテキパキと処置をこなし俺達へ指示を出していく。

あの軽口さえなければ本当に有能な奴なのだが……。

「それでは、これが傷口に塗るための塗り薬です。日に二回ほど塗って、その上から包帯で傷口を覆ってください。骨折は添え木をあてて固定しておきますので、もし意識が戻っても動かさないように気をつけてあげてもらえますか?」

ミンツは鞄から小さな瓶を取り出すとそれを見つめ、何やら言いづらそうにしている。

「何かあるのか?」

「いえ、あとはお尻にはこの塗り薬を塗るんですが……。もし、意識が戻っていたら怯えるかもしれませんから無理やり塗ってはだめですよ?優しくしてあげてください。後は、発熱がひどいのでこの薬を煎じて日に二度ほど飲ませてあげれば大丈夫です」

少年にブランケットをかけてやり、ミンツから受け取った薬や包帯などの治療道具一式を片付けているとダグが俺の肩に右手を置く。

「それじゃあゲイル。詳しい事情とやらを聞かせてもらえるか?」

と笑顔で声をかけてきた。

だが目が笑っていないし、肩に置かれた手には全力で力が入っていてみしみしと音を立てている気がする。

痛い、お前の全力で掴まれると本当に痛いからやめてくれ……。

「あっ私も詳しい話聞きたいでーす!」

「わかった。話すから手を――力をゆるめてくれ……」

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